また異動になった。
2日目にして、もう辞めたいと思っている。
新しい職場、新しい顔ぶれ、また一から。これが何度目だろう。辞令をもらったとき、頭が真っ白になった。「よろしくお願いします」と頭を下げながら、心の中では別のことしか考えられなかった。
なぜマネージャーをやっているのか、自分でもよくわからない。
流れでそうなった、断れなかった、気づいたら10年経っていた。それが正直なところだと思う。向いていないとわかっていながら続けることの消耗を、うまく言葉にできないけれど、毎朝出勤するたびに、小さく何かが削れていく感覚だけはある。
部下をまとめることを求められる。でも正直、得意じゃない。新しい環境に入るたびに気を張るし、顔を覚えて、関係を作って、また最初からやり直し。異動のたびが消耗戦だと感じている。
帰ったら帰ったで、今度は別のことが待っている。
足が悪い母、目が悪い父。買い物、病院、食事。誰かに話せるわけでもない。「今日もつかれた」と言える相手もいない。ただこなすだけの毎日が、ずっと続いている。
誰かに弱音を吐ける場所が、どこにもない日が続いている。
それでも、コツコツ資産だけは積み上げてきた。
なぜ続けられたのか。最近ようやくわかった気がしている。たぶん、逃げ道を作りたかったんだと思う。「いざとなれば辞められる」という感覚があるだけで、ギリギリのところで踏みとどまれる。そういうものなんじゃないかと思う。
大それたFIREを目指しているわけじゃない。
近くのドラッグストアで、責任のないパートとして働く。それだけでいい。
レジを打って、品出しして、定時に帰る。部下の管理も、上司への報告も、異動もない。そういう働き方に、今の自分は本気で憧れている。笑う人は笑えばいいと思う。でも責任のない仕事への憧れは、責任を持ちすぎた人間にしかわからない感覚だと思っているから。
準備は、もうほぼ終わっている。
登録販売者の資格も取った。就業規則も自分で読み込んだ。退職金がいくら出るかも調べた。地元の求人も見た。
全部、手が届く場所にあった。
あとは一歩だけ。それが、今の自分にはとてつもなく重い。
なぜ動けないのか、頭ではわかっている。長年染み付いた「続けなければ」という感覚は、理屈じゃ消えない。「辞めて後悔したら」という恐怖も消えない。親のこと、将来のこと、考え出すとキリがない。
でも最近、こうも思うようになってきた。
今のまま続けることにも、リスクがある。体が壊れるかもしれないし、心が折れるかもしれない。どちらのリスクを取るか、それだけの話なんじゃないかと、少しずつ思えるようになってきた。
資産を積み上げてきたのは、逃げるためだったかもしれない。
でも、逃げ道を作ることは、逃げじゃないと思っている。自分を守るための準備だったと、今は思えている。
一歩が重くても、準備は終わっている。
その事実だけを、今日は自分に言い聞かせながら、また明日出勤する。